無保険車との事故やひき逃げ事故

目次

政府の保障事業

ひき逃げ被害の件数は令和3年度6922件と犯罪白書に記載されています。下記の図が示すように、検挙率は死亡事故の場合98.9%、重傷事故は86.8%と高いものの、全検挙率は71.7%になっています。ひき逃げに合った場合、相手が捕まらない可能性が一定程度存在しています。

令和4年版犯罪白書より

自動車の事故に遭った場合、通常は相手の保険(自賠責保険+任意保険)から補償がされます。自分が保険に加入している方はそれが当然という認識だと思います。しかし、もしもひき逃げのように相手が特定できない事故や無保険者が相手だったら被害者は泣き寝入りするしかないのでしょうか?

国の被害者救済制度

相手が逃げてしまって特定できない場合や、相手が自賠責保険に加入していない(車検を通していない)加害者の場合、被害者を救済する制度として「政府の保障事業」があります。対象となる事故は、歩行中のひき逃げだけでなく、自動車同士の事故で負傷させられた後、加害者が逃走した場合なども含まれます。このように、相手からの賠償がなされない事故の場合、国(国土交通省)が加害者に代わって立替払いしてくれる制度のことを「政府の保障事業」と言います。

支払われる金額と範囲

①法定限度額

支払われる損害の範囲と限度額は自賠責保険の基準と同一です。治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料等が対象になります。それぞれ定限度額がありますので以下はその内訳になります。

傷害事故ケガの法定限度額は120万円です。対象となる治療関係費のうち、まず、治療費として対象になるのは(診察料、入院料、投薬料、手術料、処置費、柔道整復等の費用など)です。支払われる基準は必要かつ妥当な実費であるかどうかです。次に看護料に関しては、原則12歳以下の子どもに親が付き添った場合対象になります。支払い基準は、入院1日につき4,200円、自宅看護または通院看護1日につき2,100円です。これ以上に収入減の立証がされた場合、近親者については19,000円の支払いがされます。他に、諸雑費は入院1日につき1,100円、義肢等の費用の中には義肢のほかにメガネ(コンタクトレンズ含む)や補聴器等も含まれます。支払い基準は必要かつ妥当な実費です。メガネ、コンタクトの費用は50,000円が限度になります。

文書料というのは交通事故証明書、印鑑登録証明書、住民票等の発行手数料の実費です。

休業損害については、事故の怪我によって発生した収入の減少が対象になります。支払いの基準は、1日につき6,100円が原則です。これ以上に収入減の立証がされた場合は19,000円を限度として実額が支払われます。有給休暇を取得した場合や主婦などの家事従事者も対象になります。

慰謝料は精神的・肉体的な苦痛に対する補償です。対象となるのは治療期間の範囲内で、1日につき4,300円が支払いの基準になります。

後遺障害を残した事故

治療を継続したものの身体に障害が残ることがあります。その場合は、残った障害の程度に応じて逸失利益及び慰謝料等が支払われます。後遺障害の法定限度額は75万円〜4,000万円です。

この逸失利益とは、怪我によって労働能力が減少して将来の収入が減る場合、それを一定方法の計算により算出し、一括でお金として受け取るものです。被害者の収入と障害等級(1級〜14級)、労働能力が喪失する期間等が計算に用いられます。障害等級が重い場合や、労働能力喪失期間が長い(若い年齢)の事故の場合はそれに応じて金額も大きくなります。

慰謝料等の金額はそれが介護を必要とする後遺障害かどうかで変わってきます。これに該当するかどうかは、神経系統の機能・精神または胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常時または随時介護を必要とする後遺障害かどうかで判断されます。該当する場合は1,650万円(第1級)、1,203万円(第2級)が支払われます。

常時介護が必要とされないと判断された場合は、1,150万円(第1級)〜32万円(第14級)が支払いの基準になります。

死亡事故の場合

死亡事故の場合の法定限度額は3,000万円です。死亡後の葬儀費、逸失利益、本人及びご遺族の慰謝料が対象になります。

葬儀費の中に含まれるのは、通夜、祭壇、火葬、埋葬、墓石などに要する費用として60万円が支払われます。60万円を超えることが明らかな場合で、立証資料等を提出することで100万円までは実費が認められる可能性があります。

逸失利益についてに考え方は、被害者が亡くならなければ将来得られたと考えられる収入額から、生活費を控除したものが支払い対象になります。支払い基準は、死亡時の収入や就労可能期間、扶養家族の有無等が考慮されて計算されます。

慰謝料については、亡くなったご本人分で300万円。残されたご遺族への慰謝料は、請求する権利のある配偶者や子供、父母などの人数によって変わります。1名の場合550万円、2名の場合650万円、3名以上の場合は750万円になります。被害者に被扶養者がいる場合は200万円が追加されます

②保障事業の調整対象額

事故が起こった状況により社会保険から支払いを受けることがあります。その場合は受取額から控除される形になります。例えば、通勤中の事故であれば労災事故になりますので労災保険からの給付があります。また、通勤中でない事故で健康保険を使ってケガの治療をした場合は健康保険からの給付があります。そのほか、保険加入は無かったものの、加害者側から何らかの支払いを別途受けている場合は調整の対象として支払額から控除される可能性があります。

③被害者に重大な過失がある場合

一般的な事故解決の考え方として、自身に過失がある場合、過失割合に応じて相手から受けられる損害賠償額が変わります。自分の過失の大きさに反比例して受け取る金額が少なくなるのが普通です。

しかし、被害者救済を目的とした政府の保障事業で同じことを当てはめてしまうとなかなか救済が実現しません。よしたがって、7割以上の重大な過失がなければ受取額は減額されない仕組みになっています。仮に7割以上の過失があった場合は、①の法定限度額に下記の減額割合を乗じた金額が支払われます。

被害者の過失割合 減額割合
傷害 後遺障害・死亡
7割未満 減額なし 減額なし
7割以上8割未満 2割減額 2割減額
8割以上9割未満 3割減額
9割以上10割未満 5割減額

請求できる期間

政府の保障事業は請求できる期間が決まっています。請求できる期間を経過した場合は時効により請求権が消滅します。

請求の区分 いつから いつ(時効完成日)までに
傷害 治療を終えた日 事故発生日から3年以内
後遺障害 症状固定日 症状固定日から3年以内
死亡 亡くなられた日 亡くなられた日から3年以内

請求の窓口

請求関係の窓口は最寄りの損害保険会社(組合)になります。損害保険会社で請求関係の書類を受け取り、ご自身で必要な関係書類の収集と作成を行います。それらの書類を一式揃えた後はもう一度損害保険会社に提出する必要があります。書類を受け取った損害保険会社は、損害保険料率算出機構に書類を送り、そこで損害額の調査が行われます。最終的に国土交通省の審査・決定を経て支払いがされる仕組みです。審査途中で不足している書類の追加なども予想されますので、審査にはある程度時間がかかると考えておいた方が良いでしょう。

2023年現在になっている損害保険会社は下記の通りです。

・あいおいニッセイ同和損保(株) ・AIG損害保険(株) ・セコム損害保険(株) ・セゾン自動車火災保険(株) ・損害保険ジャパン ・大同火災海上(株) ・Chubb損害保険(株) ・東京海上日動火災保険(株) ・日新火災海上保険(株) ・三井住友海上火災(株)・明治安田損害保険(株) ・楽天損害保険(株)

・全国共済農業協同組合連合会 ・全国自動車共済協同組合連合会 ・全国トラック交通共済協同組合連合会 ・全国労働者共済生活協同組合連合会

※保険の代理店は窓口になっていませんのでご注意ください。

請求に必要な書類(共通)

請求のために用意する書類です。共通の書類の他に請求内容に応じて追加で書類を用意する必要があります。

     

      1. ご請求にあたっての申告事項について

      1. 自動車損害賠償保障事業への損害の填補請求書

      1. 人身障害補償保険(共済)へのご請求に関する確認書

      1. 填補額支払い指図書(振込依頼書)

      1. 交通事故証明書(人身事故扱いのもの)

      1. 事故発生状況報告書(保障事業)

      1. 診断書等、治療の有無及び治療内容を立証する資料

      1. 同意書(政府の自動車損害賠償保障事業)

    1.  

    ※整骨院等で施術を受けた場合は「施術証明書・施術費明細書」が必要です。施術証明書・施術費明細書の用紙は損害保険会社(組合)の受付窓口で入手してください。また、薬局等で薬を処方された場合は領収書等を提出して立証する必要があります。

     

    請求を弁護士などに委任した場合

    「委任契約書」のコピーを提出します。委任契約書がない場合は委任状と委任者の「印鑑登録証明書」の提出が必要です。

    被害者が請求時点で未成年者の場合

    親権者を確認できる「戸籍謄本」が必要です。

    通院の際の交通費を請求する場合

    ①「通院交通費証明書」

    ②タクシーを利用した場合「レシート」または「領収書」

    ③病院の駐車場を利用した場合は「レシート」または「領収書」

    休業損害が発生した場合

    ⑴事故発生時、給与所得者(パート・アルバイト含む)

    ①勤務先記入の「休業損害証明書」

    ②源泉徴収票(事故前年のもの)

    ⑵事故発生当時、事業所得者あるいは事業所得者の家族専従者(従業員)の方

    ①確定申告書の控え(事故前年のもので税務署の受付印があるもの)

    ⑶事故発生当時、家事従事者の方

    ①住民票(続柄の省略のない世帯全体の記載があるもの)

    後遺障害について請求する場合

    損害保険会社の受付窓口で「後遺障害診断書」の用紙を受け取ってください。その用紙に病院で記載をしてもらいます。

    死亡について請求する場合

    ①病院発行の「死体検案書」または「死亡診断書」

    ②『戸籍(除籍)謄本」が必要です。これは相続人確認のためです。亡くなられた本人について、出生から死亡までの省略のないものが必要です。

    ③請求する方の「戸籍謄本(抄本)」が各々の方必要です。

    ④「念書」。法定相続人が請求時点で未婚の未成年の場合必要です。年初の用紙は保険会社の受付窓口に備え付けてあります。

    まとめ

    事故の被害者になるとしばらくは気持ちが動転してしまう様子が見受けられます。特にひき逃げや無保険者との事故となればより動揺する気持ちが大きくなるはずです。これらの精神的に辛い状態に加え、先が見えないなか治療をすることは大変なストレスです。 

    今回ご紹介した政府の保障事業は被害者救済のための最終手段と考えていただければと思います。この方法外にも、加入している任意保険の内容次第ではそちらで補償されるようなこともあります。まずは加入内容の確認をされることをお勧めします。