自転車保険について

なぜ自転車保険は義務化?

全国で自転車保険の加入義務化が進んできています。なんで?と思われる方もいるかもしれません。

背景として、高額な損害賠償金額を被害者から請求される事例が多くなってきていることがあります。

今回は自転車保険の加入義務化に至った背景や、加入の方法、注意点などについて解説していきます。

義務化された自治体は?

最初に導入された兵庫県(平成27年)に始まり、令和5年4月時点で加入が義務化されている自治体は32都府県に上ります。努力義務として条例が制定されているのは10道府県です。

義務化されている自治体 宮城県、秋田県、山形県、福島県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、新潟県、静岡県、岐阜県、愛知県、三重県、石川県、福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、広島県、愛媛県、福岡県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県   
努力義務の自治体 北海道、青森県、岩手県、茨城県、富山県、和歌山県、鳥取県、徳島県、高知県、佐賀県

※上記のほか、政令指定市では岡山市が剣に先行して義務条例を制定済み

静岡県は2019年4月1日に条例が施行され、同年10月1日から義務化されています。

自転車事故の現状

自転車事故関する過去10年間の推移を見てみます。毎年交通事故の合計件数は減ってきているものの、静岡県の交通事故全体に占める自転車事故の割合は徐々に増加している傾向が見られます。

令和4年に静岡県で発生した自転車事故の件数は2908件で、全ての県内の人身事故件数18678件に占める割合は15%ほどとなっています。そのうち死者は8名、負傷者は2840名になります。

年齢層別でみると、高校生と65歳以上が多くなっています。また、発生する道路の種類は国道(12.8%)や県道(12.4%)と比べ、市町道が高くなっているようです(64.1%)。

事故の類型を見ると、出会いがしら(57.5%)と右折左折時(28.0%)の二つが主な原因であることが分かります。出会いがしらの事故ということは、それぞれ違った方向から交差点に進入した際の事故や、右左折時に巻き込まれる事故が多いと言えそうです。

約4割を追突が占めている自動車事故とはだいぶ傾向が違うようです。

これらを合わせて考えると、特に見通しの悪い市街地を通行する際、交通標識を見落としたりしないように注意が必要そうです。イヤホンやスマホを見たりすると事故発生確率は当然上がると思われます。

上記の数字は警察が発表しているものです。つまり、ケガを伴うような事故で警察を呼んだケースということになります。そこまで大事には至らないような接触事故は日常的に起こっていると考えられます。

静岡県警察交通事故統計情報 https://www.machi-info.jp/machikado/police_pref_shizuoka/infopage.html

 

自転車事故による高額支払い事例

損保協会の支払い事例を見ると非常に高額な請求の可能性があることがわかります。

損保協会 ファクトブック2022 https://www.sonpo.or.jp/report/publish/gyokai/0003.html

 

 

相手の怪我を補償するには

事例を見ると高額の支払いになる能性を踏まえて対策を取る必要がありそうです。

自動車であれば自賠責保険と保険会社の任意保険がありますが、あくまでも自動車用の保険ですので自転車の事故は補償することはできません。

ではどのような保険に加入すれば良いでしょうか?

それが「個人賠償責任保険」です。

相手への補償は個人賠償責任保険で

個人賠償責任保険とは、日常生活で偶然他人を怪我をさせたり、他人の物を壊してしまった場合に役に立つ保険です。個人賠償責任保険や日常生活賠償保険とも呼ばれています。

加入方法

個人賠償責任保険に加入する方法として、大きく分けて2つの方法があります。一つは自転車保険そのものにネットやコンビニで新たに加入するという方法です。もともと保険会社の商品ラインナップの中で、自転車保険はドアノックツール的(低価格でご紹介して顧客と人間関係を作る)位置付けでした。それゆえ長く下火の様子でしたが、条例による義務化に合わせて商品内容がリニューアルされてきているようです。保険会社が商品リニューアルをする場合、一般的に補償を追加して魅力を出すことが多いですから、最近発売された商品は補償内容が充実している分掛金もそれなり高くなる傾向があります。具体的には、相手への損害賠償に加えて怪我による入院、通院の補償、弁護士費用、自転車のロードサービスなど幅広くなっています。掛金の負担をある程度しても良いということであれば、自転車を運転する一定の期間加入するという選択肢もありだと思います。

もう一つの加入方法は、すでに加入している他の保険に特約として個人賠償責任保険を特約として追加するというものです。この方法ですと補償範囲は限られる(相手の損害だけ補償)ものの掛金の負担は少なくて済みます。この場合、他の保険とは一般的に自動車保険、火災保険、傷害保険などの損害保保険のことを指します。保険会社によっては生命保険に追加することも出来るようです。いずれにしても保険会社に追加で加入できるか確認する方が良いでしょう。

この特約で補償されるのはあくまでも相手の怪我や物の損害のみです。考え方を割り切って掛け金を安く抑えたいということであれば、特約だけ追加するということでも良いと思います(毎月数百円程度の負担)。

ただし、特約であるが故に気をつけたいポイントがあります。まず、元の契約が継続されていないと特約の補償も継続されないこと。例えば、自動車保険に付けていた場合、結婚して別世帯になった場合に補償範囲から外れることなどがあります。また、更新の際など手違いで継続されていないといったことも起こり得ます。手続きの際は気をつけて確認する必要があります。

上記を整理すると加入方法は以下のようになります。

①自転車保険に単独で加入

②自動車保険➕個人賠償責任特約

③火災保険➕個人賠償責任特約

④傷害保険➕個人賠償責任特約

⑤生命保険➕個人賠償責任特約

 

補償重複に気をつける

二重に保険料を払ってしまう可能性があるので加入の保険証券を確認しましょう。

起こりがちなパターンをいくつか挙げます。

①すでに加入しているマンションやアパートの火災保険➕個人賠償責任特約

マンションやアパートに入居する際は火災保険の加入が条件になっていることが多いです。これは下の階への水漏れ対策や、失火の際の大家さんへの賠償の意味合いが強いですが、入居時に保険内容の説明をしっかりすることは珍しいものです。

すでに個人賠償責任特約に加入しているのに気が付かず、追加で加入してしまうケース。

②すでに加入しているゴルファー保険➕個人賠償責任特約

ゴルファー保険は個人賠償責任保険とケガの保険、それにクラブ等を補償する物の保険の組み合わせです。この保険があるのにさらに特約を追加すると二重に支払っていることになります。

③一定のクレジットカード➕個人賠償責任特約

クレジットカードに個人賠償責任特約がすでに付いているのに気が付かず、追加で特約加入をするケース。カードのサービスの確認をお勧めします。今までの傾向として、経営者の方で複数枚カードを所持しているような場合は起こりがちのように思います。

④実家で加入している➕自分で個人賠償責任特約

補償範囲のところで説明しますが、一般的な損害保険の補償範囲(保険の対象者)は同居している親族と別居の未婚の子供になります。実家を出て一人暮らしの方であればあえて追加しなくても補償されている可能性があります。

補償額

補償額は1億円や無制限など選べることがありますが保険料負担の違いを確認してください。その上で無制限を選択することをお勧めします。上記の支払い事例にもあるように、怪我が原因で死亡する場合と、死亡には至らず、意識がないまま病院で亡くなるるまでの長期間の賠償が必要になることもあります。それらを考えると1億円と無制限の保険料差額は負担はする価値があると思われるはずです。

補償範囲

保険の考え方の中に被保険者というものがあります。誰が補償される人なのかという意味で考えてもらって良いのですが、大切なことなので加入の際は確認するようにしましょう。損害保険では基本的に同居の親族(6親等以内の血族、3親等以内の姻族)と別居の未婚の子どもが対象になることが多いです。未婚の子どもですから一度でも結婚して別世帯を形成すると、その後離婚してシングルの状態に戻っても未婚の子どもの範囲から外れます。仮に小さな事故であれば保険会社も調べない可能性が高いですが、死亡事故などを起こしてしまった場合、被保険者の範囲の確認は必ずされます。今までに結婚経験がある方は自分で加入する必要があります。また、保険で起こりがちなこととして、自分が保険の対象と思わなかったので請求しない、いわゆる請求漏れの状態があります。特に個人賠償責任保険や自転車保険では気が付かないうちにこの請求漏れが発生している可能性が高いです。例えば、子供の高校進学時、通学のため学校からお薦めされた保険に加入をした場合です。この場合、親の認識は「子どもに保険をかけた」だと思います。しかし、実際は通学中の子ども以外の同居の親族も被保険者である可能性があります。

対象になる事故

個人賠償責任保険の対象になるには、日常生活で意図せずに(偶然)事故を起こしてしまい、それについて賠償金を支払う責任が発生した場合です。自転車の事故に限らず、偶然他人のカラダや持ち物に損害を加えてしまった場合を対象とするのでかなり幅広い事故が対象になります。具体的な事例では、子どもが石を投げて他人の建物に傷がついた場合、アパートで水漏れを起こしてしまい階下を水浸しにした場合、お店の置型看板に寄りかかったらキャスターが動いてしまい階段下まで看板が落ちた場合など多くの事例があります。

対象となる事故を考える時に気をつけるべきポイントは2つあります。「日常生活」ですから仕事中は含まれないということ。そして、「偶然な」事故の意味です。保険会社が考える偶然な事故というのは予測できない形で起こった事故になります。例えば、バレーボールの練習中に相手の顔にボールをぶつけてしまいメガネが壊れたとします。そのような場合、バレーボールの特性上ボールが飛んでくることは必然であり予想されていますので、この事故は偶然ではないという結論になります。一部の学校共済等では補償対象にしているところもあるようですが、法律上の賠償責任という観点では責任は発生しないと考えるのが自然です。まずは偶然かどうかというのがポイントになります。もう一つ、偶然性を判断するポイントに誰の管理下にあるかという問題があります。例えば、あなたが友人から預かった物を壊してしまった場合です。預かるという状態に入っていると物に対する管理は友人から自分に移っています。つまり責任が自分に移っている状態といえますから、この状態での事故は偶然ではないという結論になります。

保険の商品として本人の管理下にある物を補償対象にするかどうかは各社によって違います。仮に対象にする場合でも特定の物は対象外になっている物品(サーフボードなど)もありますので、気になる方は加入している保険会社の約款を確認する必要があります。

法人として仕事で使う場合

仕事中に自転車で事故を起こしてしまった場合、個人賠償責任保険は対象になりません。個人賠償責任保険は日常生活で賠償責任を負った場合対象になる保険ですから、事業活動中の事故は別の保険に加入する必要があります。その場合は、事業者向けの賠償責任保険を検討するようにしてください。

また、最近では燃料代の高騰や健康志向から自転車で通勤を希望される方も多いのではないかと思います。企業としては通勤規定を定めそれに沿った運用をする必要があります。国土交通省のホームページに自転車者通勤に関する手引きや自転車通勤規定の様式がありますので参考にしてください

 国土交通省HP https://www.mlit.go.jp/road/bicycle_guidance.html

事故を起こした際の責任

自転車は道路交通法上は軽車両として扱われます。気軽に乗れるものなので軽く考えがちですが、交通違反をして事故を起こしてしまった場合は「刑事上の責任」と「民事上の責任」が問われます。

刑事上の責任  相手を死傷させた場合「重過失致死傷罪」となります。

民事上の責任  被害者に損害賠償責任を負います。

刑事上の責任で発生した罰金は保険の対象になりません。保険はあくまで民事上の責任をカバーするためのもので罰金は自己負担になります。

経験上気をつけて頂きたいのは、接触事故を起こした際に大した怪我ではないだろうと考え警察を呼ばずに済まそうとしないことです。例えば小学生に自転車で接触した際、自己判断で家に帰らせて後から発覚したら轢き逃げと取られる可能性があります。事故を起こした際は怪我人を救護する義務があることと警察を必ず呼ぶことが大切です。

まとめ

今後自転車保険の加入義務はさらに広がっていくものと思います。一口に自転車保険といってもさまざまな加入の仕方があります。ご自身の生活スタイルや要望に合った形で加入することをお薦めします。